どうも、ジャコウです!近頃は出社する日が増えてきたので平日にタイガと触れ合う時間が減ってきました。もう少し大きくなったら交換日記でもつけたいけど、はたして書いてくれるかなw
さて今回は、タイガのハロウィン話をお届けします。どうぞよろしく!
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新しいゲームが欲しい
ある昼下がり、タイガはあつ森の自分の家の壁に飾ってある「パンプキングの肖像画」を眺めながら、真剣な面持ちでなにやらぶつぶつと呟いていた。
「……さーきっと……まりお……さーきっと……」
不思議に思ったので聞き耳を立てながら近づいてみることにした。
「まりおさーきっとください、まりおさーきっとください……」
どうやらお願いごとをしているようだった。でも、まりおさーきっと? マリオサーキットといえばすでに持ってるNintendo Switchのゲームだ。わざわざお願いしてまで貰うようなものじゃない。どういうことだ。しかも、なぜお願い事をパンプキングにしているのだろう。
いきなり理由を聞いてもタイガの行動を否定しかねないので、外堀から埋めていくことにした。
「タイガ、なにお願いしてるの?」
肩を軽くぽんぽんと叩きながら話しかけると、振り向きざまに返事が飛んできた。
「ニンテンドウスイッチのゲーム!」
満面の笑みでタイガは答える。嗚呼、我が子の笑顔が眩しい……これは欲しい欲しいオーラが抑えきれずに毛穴から溢れている。
「マリオサーキットっていうのがあるんだ?」
「うん!あたらしいの!おうちでできる。コースじぶんでつくるんだ」
「それは楽しそうだな!ちょっとお父さんも調べてみよう!!」
興奮気味に言葉が出てくるところをみると相当ご執心なようだ。というわけで、情報の断片を仕入れることに成功したので、すみやかに困ったときのGoogle頼みで検索した。
千 (せん)の次は万(まん)
するとすぐに最近発売されたばかりの「マリオカート ライブ ホームサーキット」ではないかと推測できた。
これ、twitterでプレイ動画をみたことあるな……家の中でできるラジコンとARがあわさったようなレースゲームだった。きっとタイガもYoutubeで誰かがプレイしている動画を見たに違いない。
「タイガ、欲しいのってこれ?」
スマホの画面をそっと差し出し、反応を伺ってみた。
「うんうん、これだよぉ!」
「そっか、これ面白そうだけどいい値段するよ。いくらだと思う?」
「せんえん!」
最近、数字の百の位の次が千であることを知ったばかりなので、なにか大きそうな数字だなと思ったときひとまず「せん!」と言っているのだ。まるっとお見通しである。
「もっと高い!」
「えええぇぇぇ!?じゃ、ひゃくえん!」
「即答だな、おい!」
絶対に考えてないとわかるから笑みが漏れる。千でないとわかったからすぐに百と答える、恐ろしいほどの反射だ。
僕の顔色からハズレと察したのかタイガは続けた。
「ひゃくえんちがう?じゃ、さんびゃくえん!?ごひゃくえん!??」
タイガは一度考えてハズすと、その後は知っていることを発想の物量でもって総当り的に解決しようとする癖があった。
「惜しい!もっと──」
と、そこまで言ってから肝心なことに気づいた。そういえば千より大きい数の呼び方を教えてなかった。これはいいタイミングかもしれない。鉄は熱いうちに打てというが、タイガも興味があるうちに刺激したほうが覚えがいい。
「千の次の数字は万っていうんだけど聞いたことある?」
「ある!?ん〜、ない!」
「あってもなくても大丈夫。一緒に言ってみようぜ」
「うん」
二人で顔を見合わせると、まず先に僕が手本を見せる。顎が外れるくらい大きなくちを開け、そのあと勢いをつけて口を閉じる。するとタイガも真似して続けた。お互いに何度か繰り返していたので遠目から見たらきっと魚が口をパクパクさせているような姿だったに違いない。
「お〜、上手上手!よしそれなら、このマリオサーキットの値段のところいくつ数字ある?」
「え〜っとぉ、いち、にぃ、さん──」
タイガは再びスマホを覗き込むと、指で数を追いながら丁寧に数え上げていった。
「ごこだ!」
「正解!」
「やったー!」
よほど嬉しかったのか、拳を握りながら胸のあたりで腕を上下に交互に素早く揺らしていた。一体そんな表現をいつどこで覚えてきたのか、新しいタイガを発見した。
僕の知らないところでもわりと元気にやってそうだな。
「数字が5個あるときは、いっちばん左の数字に、いま練習した万って言葉を付けるんだぞ」
「むずかしい……」
おっと、事情が変わった。端的に言えばしくじった、話が長すぎたのだ。喜ぶタイガを見て、つい浮かれて冗長的になってしまった。
タイガは長文を処理するのが少しだけ時間がかかるので、そういうのに触れると、難しいやわからないと言いながら思考を止めがちなのだ。もしかすると面倒くさいという感情も芽生えているのかもしれない。
いずれにしても関心が下がってきたときの代表的な台詞が「難しい」なので、僕はハードルを思いっきり下げてみることにした。
「今日は万って言葉の音だけ覚えとこ!」
無言の頷きがだけが返ってきた。さっきまで全身で喜んでいたタイガはどこへ行った!?
「じゃ、今度のお休みのときにまた数字で遊ぼう!」
「う、ん……」
伏目がちな返事。歯切れが悪いし、目も合わせようとしない。これはもうダメだ、手遅れだ…ここにしくじりの歴史がまた1ページ。
これ以上の深追いはお互いに火傷するので、見切りをつけて本題に入ることにした。
ハロウィン ≒ クリスマス
「そういえばマリオサーキットさ、なんでパンプキングにお願いしてたの?」
「え!?」
マリオサーキットと聞いた反応が早かった。どこからともなくまた話の興味が再集結してくる予感を感じる。
「マリオサーキット、なんでお願いしてたの?」
もう一度、畳み掛けるように尋ねる。あえてマリオサーキットという単語を繰り返す。兆候を見逃すわけにはいかない。
「はろいんだからね!ぷれぜんともらうんだよ!!」
「ハロウィンってプレゼント貰えるの?」
「いいこにしてたらもらえる!」
「そうなんだ、誰に教えてもらったの?」
「ようちえん?わすれた!!」
「でもさ、プレゼントは誰がくれるの?」
「ぱんぷきんぐ!」
あ、パンプキングは普通に言えるんだ。「パンプキン」は「パンツキン」になるのに……。
「パンプキングがプレゼントくれるんだ。知らなかったー!」
「そうだよ、おとうさん、しらないの!?」
「パンプキングって、サンタクロースみたいだな!」
「うん!あのさ、あのさ、きっとサンタさんと、おともだちなんだよ!」
このあともいくつか質問を続けてわかったことは、いつの間にか、タイガはハロウィンをクリスマスと同じようなものだと認識していて、パンプキングはサンタクロースのような存在になっていた。実に可愛げのあるご都合主義だ。
そして、いま欲しい物がいっぱいあるから、11月にパンプキングに一つお願いしておけば、12月にはサンタクロースにもプレゼントがもらえて、2ヶ月連続で欲しいおもちゃが貰えるぞ、やったー!とってもラッキーだ!と思っているらしい。誰に似たのか計画的でしかもちゃっかりしてる。
「ハロウィンまで1週間はあるけど、いまからお願いするんだな」
「びょういんいくから、あそべないって。おかあさんいってたよ」
あぁ、そうだった……これは完全に僕の落ち度である。
ちょうどハロウィンが盛り上がる10月31日の土曜日は病院で一日検査のある日だ。仕事の予定で頭がいっぱいで通院の予定が抜け落ちてた。事前準備もあるのでその週の後半はゲームどころではなさそうなのである。
しくじりの歴史がもう1ページ増えた。
「たしかに。じゃ、いまからお願いするしかないな」
「うん!がんばる!!」
「おう、頑張れ!頑張るタイガをみんな応援してるぜ」
右手の親指を立てると、頬の高さくらいまで上げて、いつものようにいいねのポーズをとって見せた。タイガもそれに呼応して同じポーズをとる。
タイガの苦手な検査がその日にはある。だからきっと不安もあるはずで、心のモヤモヤをマリオサーキットが欲しい気持ちで打ち消そうとしている部分もあるのだろう。
「よし、ちょっと飲み物を作ってくる」
当初の謎は解けたが全然すっきりしない。僕は気分転換にコーヒーを淹れることにした。タイガの背中を軽くぽんぽんと叩いてリビングを後にする。
「いってらっしゃい!」
背中越しにタイガのハッキリとした声が響いた。
今日はペーパードリップにしよう。コーヒー粉やドリッパー、ドリップポッドを棚から取り出して手早く準備する。いつもの豆にいつもの器具なので手慣れた手順だ。
お湯が湧く間、僕はずっとキッチンで佇みながらパンプキングのことを考えていた。
今回のベストクエッション
タイガ、なにお願いしてるの?